2014年11月10日

身体の中からのマッサージ

メルジャーノフ教授はどっしりとした姿勢を保ち、重量を使って演奏していらしたにもかかわらず、運動的にみると常に軽さが備わっていました。一体、どうしたらそうなるのか、いつも不思議だったのですが、私は彼がいつも体中に気を巡らしていたのだと思っています。

彼はあるとき、言いました。
「筋肉のマッサージをすると同じように、内面のマッサージ、神経のマッサージが要るんだよ。
演奏前に、緊張した身体の内面を、一つずつほぐしていきなさい。
足がくつろいだ、腰が、内臓が、そして首がくつろいだ、肩が、腕が、肘が、手が、指がという具合にね。」

なるほど、まさにこの内面からのリラックス獲得が気を巡らす基を作っているのだな、と私は思ったものです。しかし「気を巡らす」という言葉は彼には通じませんでした。いつかベルリンで少林寺拳法のデモンストレーションにお連れし、『気』を集めることに成功すると人は頭で鉄の棒を真っ二つに割ることができるというパーフォーマンスをお見せしました。ところが、教授ならばさぞかし感動なさるだろうという期待に反して、彼は決して信じようとしませんでした。後半は最前列でご覧になりましたが、やはりダメ。
「あれは、頭に何かかぶっているに違いない!」
というのが彼の主張。いくら頭に何かかぶっていても、痛いと思うのですが...
本気で、あのパーフォーマンスのからくりを見つけようと考えを巡らされた教授。そのの無邪気な姿が、思い出されます。

posted by 英代&フレンズ at 19:47| メルジャーノフ

2014年11月08日

11月27日、白寿ホール主催『第12回 ワンダフルoneアワー』におけるリサイタルのプログラムについて

11月27日、白寿ホール主催『第12回 ワンダフルoneアワー』で、グリーグ、チャイコフスキー、ラフマニノフの作品を演奏します。私の大好きな曲を並べさせて戴いた今回のプログラムについてお話し致します。
グリーグとチャイコフスキーは、お互いに尊敬しあい、大変親近感を覚える存在でした。1888年、チャイコフスキーがライプツィヒを訪れた折りに、ライプツィヒ音楽院で教えるロシア人ヴァイオリニストの家に招待され、そこでグリーグ夫妻に初めて会いました。この時は、ブラームスも招待されていて、ブラームスと肌の合わないチャイコフスキーは居心地の悪さを感じていたのですが、グリーグも居合わせてくれたのが幸いでした。このときの様子をチャイコフスキーは弟に詳しく手紙を知らせていますが、トーマス・マンの息子クラウス・マンも自作の小説『悲愴交響曲』の中でこのシーンを見事に描いています。
3歳年上のチャイコフスキーがグリーグを評価したのは、彼の作品の旋律の美しさでした。ブラームスの魅力は構築性にあり、ブラームスの作品の旋律線にはパッチワークのように思えるものが多々あり、チャイコフスキーの信念と異にします。もっとも、チャイコフスキーに「ブラームスを嫌いだ」とはっきり言わしめた原因は、彼の人間性にもあったものと思われます。それに引き替え、グリーグの音楽に対してチャイコフスキーは、「私の心を捉える温かく感情的な曲を作曲する作曲家」と見做していました。この「音楽の温かさ」というのがキーワードです。“温かみ”とは、もちろん豊かな感情を意味しますが、それはセンチメンタルとはかけはなれたものであり、崇高なるものを孕んでいます。そういった真の音楽の温かみを演奏に反映させるには演奏者の内面からの成熟を要します。私が実際の演奏に接して肌で感じることができたピアニストの筆頭にウィルヘルム・ケンプとエミール・ギレリス、ヴィクトール・メルジャーノフ教授がいらっしゃいます。

チャイコフスキーと、彼より33歳年若いラフマニノフの関係も緊密なものでした。ラフマニノフはこの巨匠を崇め、チャイコフスキーは若き後輩の援助を惜しみませんでした。それは周りの人々をして、「チャイコフスキーは若輩を褒めすぎる」とまで言わせたものでした。しかし、ラフマニノフはチャイコフスキーが自分を一人の作曲家として接してくれたことに戦慄を覚え、それは彼への大きな励みとなったのでした。

今回取り上げます3人の作曲家の美点の一つは、明らかに“旋律の美しさ”にあります。旋律は言葉の線ですから、彼らの言葉がそのまま聞こえてくると思っていただければいいでしょう。「旋律の作曲ほど困難なものはない」と言ったのは、モスクワ音楽院の音楽理論家教授であった故ナザイキンスキー氏でした。「旋律も学べないものではないが、学んで作られた旋律は不気味だ」と彼は言ったものでした。
また、その美しい旋律を浮かび上がらせる魅惑的な和声も彼らの美点の一つです。グリーグは子供の頃から学校の勉強には全く身が入らなかったようですが、音と音を組み合わせて新しい和声を見つけることに余念のなかった彼は、前代未聞の音色を生み出しました。彼はまたノルウェーの出身ですから、ロシア人とは違った色彩を誇り、民族性を感じさせます。チャイコフスキーは西洋音楽の音楽理論を取り入れながら、ロシア民族音楽の色彩を盛り込むことを忘れませんでした。ラフマニノフになりますと、よりロシア的なメランコリー色が強くなりますし、ジプシー音楽の要素も絡んできます。当日は三人三様の旋律と和声の魅力を堪能して戴けると嬉しく思います。

白寿ホールは小品をお聴きいただくのに最高の空間です。皆さまにお目にかかれますのを楽しみにしております。

プログラムは以下の通りです。
グリーグ:「抒情小曲集」より
メロディー op.38-3 /春に寄す op.43-6 /スケルツォ op.54-5 /ノクターン op.54-4 /トロルの行進 op.54-3

チャイコフスキー:組曲「四季」−12の性格的描写 op.37bis より
1月 炉端にて / 2月 謝肉祭 / 4月 松雪草 / 6月 舟歌 /8月 収穫 / 10月 秋の歌 / 11月 トロイカで

ラフマニノフ:前奏曲
二長調 op.23-4 / 嬰ト短調 op.32-12 / ト長調 op.32-5 / ト短調 op.23-5

詳細は以下の通りです。
2014年11月27日(木)
昼公演15:00開演/夜公演19:30開演
白寿ホール
各回全席指定3,000円(税込)

チケットが残り少なくなってまいりました。ご希望の方はお早めに下記までお申込みください。
Hakuju Hall チケットセンター
03-5478-8700

白寿ホールHP http://www.hakujuhall.jp/syusai/14.html
白寿ホールHPインタビュー http://www.hakujuhall.jp/schedule/artist/201410_01.html

プログラムに入っていますラフマニノフのプレリュードop.32-12はYouTubeでご覧いただけます。これはスイス/ベルンのカジノでアンコールに演奏したものです。





posted by 英代&フレンズ at 13:28| お知らせ